A Tree That Travels

A Tree That Travels

「旅をする木」は、アラスカで写真家として活動した星野道夫さんの著作です。何度も読み返すほど、私の大好きな本のひとつ。アラスカの原生林から海へ流れ出した一本の流木が、長い時間をかけてどこかの岸辺へと辿り着き、新しい物語を作っていく。その木の旅に、自然界の大きな循環や、人と人との不思議な巡り合わせを重ねるように綴られたエッセイ集です。
そして、そんな「旅をする木」が、今年、私のもとへやってきました。

今年9月、2017年から日本とカナダを行き来する二重生活を始めて以来、長く暮らしてきたバンクーバーを離れ、海を隔ててフェリーで2時間弱のバンクーバー島へ引っ越しました。
そして、この島でファームを営むことになりました。いつかやってみたいと願っていた小さな夢が、少しずつ現実になっていき、まるで奇跡のようなご縁が、思いがけず私たちのところへ転がり込んできたのです。

引っ越しの準備をしていたある日、そのことを友人であり、バンクーバーを拠点に活動するWood Furniture DesignerでありArtistのBrent Comberさんに話をしました。すると、「渡したいものがあるから、スタジオに来てくれる?」、と。スタジオを訪ねると、外に大きな木板の束が積み重なっている場所がありました。Brentさんがそこを指差して、「これは樹齢250年のオークなんだけど、どれか好きな一枚をプレゼントするよ」と言ったのです。

そして、このオークの木が辿ってきた長い旅の物語を聞かせてくれました。

1862年、現在のバンクーバーの高級住宅街・West End(ダウンタウンの一等地)にあたる広大な荒地、約550エーカーの土地を、3人のイギリス人開拓者が購入しました。当時としてはあまりにも無謀と思われるほどの高値(1エーカー/1ドル)で未開の土地を買ったことから、周囲の人々は彼らを「Three Greenhorns(3人の世間知らず)」と呼んで笑ったそうです。

そのうちの1人、Brighouseさんは、さらに現在のRichmondにも約700エーカーの土地を購入し、そこで農業や馬、牛の畜産を始めました。家族を新天地へ呼び寄せるため、一度イギリスへ戻った彼は、大好きだったイギリスのオークの苗木も一緒にカナダへ持ち帰りました。それが、このオークの長い旅の始まりでした。

時は流れ、そのオークはBrighouseさんの土地で大きく育ち、やがて樹齢250年にもなる立派な木となりました。そして2010年のバンクーバー冬季オリンピックに向け、Richmond Olympic Oval(スピードスケート会場)の建設が始まったとき、その土地は市に買い取られ、オークの木も伐採されることになりました。そのときBrentさんのもとへ、「この木を引き取って、何かに再利用できないだろうか」と声がかかったそうです。そうして250年の時を生きたオークは、木板として新たな命を与えられました。

その残りの一枚が、今、私たちの手元にあります。

この話を聞いたとき、胸が熱くなるほど感動しました。そして同時に、強く背中を押されたような気がしました。農業のことなどほとんど何も知らずに、これから新しい人生のチャプターへ踏み出そうとしている私たちへのエールの意味も込めて、Brentさんはこの木を贈ってくれたのだと思います。


250年を生きたオークの木は、もう土に根を張り、枝を広げることはありません。けれど、その命が終わったわけではありません。遠いイギリスから海を越えてカナダへ渡り、ここで根を張り、長い年月を生きたあと、今度はBrentさんのスタジオへ。そして今、私たちとともに、また新しい土地へ旅をしています。これからはファームテーブルとして新しい時を刻んでいきます。
そんな時に、ふと、星野道夫さんの「旅をする木」を思い出したのでした。


これから始まる私たちのファームでの新しい旅を見守ってもらえるようにと、オークのファームテーブルは、敷地のちょうど真ん中に置きました。いつか近い将来、ここにみなさんをお迎えできたらと思っています。

このテーブルを囲んで、採れたばかりのハーブを使ったものを味わったり、季節のいろいろに触れたり、ただゆっくりと風を感じたり。

そして私たちの務めは、足元にあるこの土地が、今よりさらに美しく、健やかな状態で、次の世代へとつながっていくことだと思っています。

いつか私たちの旅が終わったあとも、このオークはきっと、また誰かの物語の中で新しい旅を始めるのでしょう。そう思うと、巡り逢いと命の循環というものは、なんと不思議で、尊いものなのだろうと思います。

この木に触れるたびに、大地と自然、そして私たちを取り巻くすべてのものへの敬意と愛を忘れずに、と語られているようです。

一日一日、少しずつ。オークテーブルと一緒に、新しいファームの物語を育てていきたいと思います。

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